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大学教授になる方法

内容

現役の大学教授である鷲田小彌太(わしだ・こやた)の著書、 「大学教授になる方法」(PHP文庫)は、 まず大学教員とは如何なる仕事かを説明した後、 幾多の実例を挙げながら大学教員になるための方法を提案する。 大学教員が実に良い職業であると述べ、 そして存外に大学教員になるのはたやすいことであることを主張。 学歴に物を言わせて「実力」でもぎ取る方法から、 詐欺まがいと思える様な「政治」でもぎ取る方法まで、 その至る過程を通して職業としての大学教授に迫る。

感想

これは参った。 この本を大学生協の本屋で見つけた時だ。 別に実際に大学教授になろうとは思っていなかったが、 にも関わらず非常に興味をそそられたので、 値段も手軽であったことからレジに持っていた。 するとレジのおばちゃんはニヤニヤするのである。 そしてブックカバーを掛けて手渡される時に、 「がんばってね」みたいな事を言うのである。 何故だが知らぬが、かなり恥ずかしい。

我思うに店員なる者、売り物に反応したらいかん。 如何に不細工な男がコンドームを買おうと笑ってはいかん。 もうすぐ中年に届かん年の男がエロ・アニメを借りたからといって笑ってはいかん。 特に書店では人の嗜好が如実に偏る所である。 エロ本を買う度に店員にこそこそされては堪らない。 美少女系の漫画を買う度にクスっと笑われては堪らない。 店員たる者、店員たる仕事に専念すべきにやあらん。 あくまで事務的に作業すること店員の本領にて、 悪戯に客となれ合うは営業マンの仕事なり。 兎も角「大学教授になる方法」なる書を買おうとも、 無表情でやり過ごさなければ非常に心苦しき事なり。 それが店員の、いや人のマナーというものなり。

おっと、ちょっと脱線してお茶を濁してしまった。 それはそうと、この本を読むと、やはりこれは参った。 例えば採用・昇進で重要な地位を占める研究論文(ペーパー)についてだが、

これは、本名、仮名ともに挙げることが出来ないが、 採用時に出された論文と、採用後、 その常勤講師が語ったり書いたりすることと 余りにもかけ離れている事実に二回ほど出合ったことがある。 げっ、と思ったが、後の祭りなのである。 一人は、教育の方もひどいが、もう一人は、よい教員である。

更に続けて、

しかし、さらに心臓の強い人はいるもので、 ただ書いて、しかも長々と書いて、 活字にする人がいるのである (他人に読めないほどの長さなら、なおのことよいということになる)。 この方がうんと多い。 もとより、論旨、文法ともに支離滅裂である。 本人だって説明しかねるほどに「難解」ということもある。 しかし、ともかく書き、そして、 「自説」の正しさを主張するだけなのである。 いい加減な審査をすると、 こういうのに引っ掛かり、 またもや、後の祭りということになる。

少々極端の場合を挙げているが、 論文とはパクってなんぼということだろう。 論文と言ってもちょっと性質が違うかも知れないが、 例えば我が学部の卒論作成規定では末に参考文献を記す事が求められる。 なるほど論文には参考文献が付き物だ。 しかしながらそもそも参考というのはパクったというのに他ならないのではないか。 参考文献をずらずら並べるのは、 要するにあっちこっちからつぎはぎして、 とりあえず一つにしてみました、みたいな物ではないだろうか。 本当に新しい発見なら、それこそ参考にする物さえ存在しないはずである。 少々大げさな物言いだけれども、 そんな危うい物によって成り立っているのが大学という物の実体なのだろう。

以上の例の他にも本書には様々な「豪傑」達が登場する。 ドイツ語を習った事がないのにドイツ語の教員になる者、 科目名とは関係なしに自分の専門だけを講義する者。 また無数の大学に埋もれた凄い大学を掘り起こす。 工学関係の教員196名中75名が自校出身の千葉工業大学、 寒さと風のために立木さえ育たぬ辺境にある稚内北星女子短期大学。 いやはや日本も広い。 けれども思い当たる節がないでもない話だ。

とまあ、こんな調子で次々と驚きの新事実が暴かれるのだが、 けっこう真面目に考えさせられる面もあって、 大変楽しく読み終えることが出来た。 大学に通う者、殊に教授になろうと思わずとも、 たとい店員の失笑を買おうとも、 「大学教授になる方法」の一読をお勧めしたい。 特に就職活動に取り掛かる前に。

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制作・著作/香倉外骨  Since 2001/09/10
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