雨に濡れて

― 二人の思いが変わらなければ、いつしか人生が開けると、当てもなく信じていた ―


  2017/03/26 23:58 更新  
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飛浩隆 - 自生の夢

参月

弐拾六日

三十六計逃げるに如かずなる故事が教訓たりえるのは、即ち逃げることに対する良くない先入観があってゞある。逃げるは劣っていること、潔しとしないこと、隠さねばならないこと。こういう価値観があるからこそ、三十六計逃げるに如かずと、逃げることの価値を敢えて持ち上げてやる必要がある訳だ。

たぶん逃げるのは作戦としては良くない。作戦ですらないのかも知れない。勝負から逃げているのだ。まともな戦法とは、例えば二番手三番手の好位からの差し切りを狙うことであったり、中段から全体のペースを見極めて、第四コーナーより攻めて最後の直線で追い込む。これがまともな勝負である。

だが真剣さなど我関せず、独り逃げるのだと、たゞ一途に走り去ることを選ぶ。作戦というには余りにも単純で、時に運任せであり、それでも前だけを見て逃げる、逃げて走る、その選択そのものが、勝負から逃げているのかも知れない。

だからこそ逃げ切ったその姿が美しい。逃げ切れず捕らえられたその姿もまた美しい。晴々とした勝ち方、清々しい負け方、そこに込められたおもい。

故に人は逃げ馬に魅せられるのだろう。 [89605] web拍手する

弐拾五日

西暦二千年のオークスはアパパネとサンテミリオンが制した。つまり一着が二頭。G1初の同着であった。

内を走るサンテミリオンの方が差し替えしたように見えるも、首の上げ下げで全く分からず写真判定。結果、同着となった。騎手のインタビューが面白く、「負けなくて良かった」と云って抱き合っていた。一着同着、まるで漫画みたいだ。 [89586]

拾九日

またしても阪神競馬場へ向かう。穏やかに晴れた日曜、三連休の真ん中、阪神大賞典(GII)の開催、やはり道も駐車場も混んでいる。一駅南の甲東園駅に車を停めて、電車で向かうことにする。だいぶんタイムロスした。いっそ今津駅辺りに停めた方が結局は早く着くのかも知れない。これから混みそうな日はそうしよう。

メインの阪神大賞典は三千メートルの長距離戦。なるほど長距離は順当にしかならず、見応えは充分だけど、馬券としては面白くない。というか前と違って今日は全然勝てない。唯一当てたのが山陽特別のみ。

第九競走の山陽特別。芝の千四百。戦績、体重の絞れた感じ、パドックの雰囲気、全て最高であったアポロノシンザンである。何より名前がいゝ。少しでもシンザンの血を引いているのかなと思いつゝ、まあ名前だけだろうと思いつゝ、応援することにする。結果、予想以上の圧勝であった。 [89469]

拾日

等身大(以下の最弱)リアルヒーロー誕生。その帯をまとった本の名は、中沢健「キモイマン」。これは読むしかない。

もっと痛快なラノベと思ったのに……何て重苦しいんだよ。主人公のいじめられっぷりが半端やない。殴られ蹴られ、裸にされて動画を同級生にバラ撒かれる。これは酷い。救いがない。

ついに痛快に倒すヒーロー登場と思えば、そういう訳でもなく、展開がまた惨めで痛すぎる。こゝには正義も晴れ晴れしさもなく、たゞ暗澹たるペーソスが充満している。この身の古い痛みが思い出され、あゝ、今が仕合せだと。

正直、辛すぎて万人には勧められないかも知れないけれど、もういっそアニメ映画化希望である。 [89301]

五日

映画「龍三と七人の子分たち」を見た。元ヤクザの老人たちが繰り広げるコメディである。オレオレ詐欺に引っかゝり、お金がないので指詰めて詫びようとして反対に逃げて行かれる所、思わず笑ってしまった。そういう意味でけっこう面白いけれど、ずっとその調子で、最後のバスで追いかける場面はちょっとね。そこは無茶苦茶でも本気でやり合って欲しかった。

ホステス役の百合子が可愛くて、調べてみると今話題の清水富美加であった。確かに可愛い。[89200]

四日

リアルダビスタの影響で競馬熱が再燃している。思い立ったが吉日とて競馬場へ我がヴィッツを駆る。十二時前ぐらいに到着。実に十年以上ぶりかも知れない。

第五レースからの参戦となる。賭け事はあまり好きではないので、レースごとに千円だけ買うことにする。全部負けても八千円という計算。

パドックを眺めると、目の前の馬体の美しさに見とれてしまって、冷静な判断ができなくなってしまう。マークシートの書き方も忘れていて戸惑うばかり。そもそも昔はワイドとか三連単とか無かった訳で。

良馬場を駆け抜ける競走馬の美しさ。やっぱり来た値打ちがあったというもの。最終レースまで投票して三回勝ち、累計五千円ほど儲けた計算になるのかな。まあ交通費を取り返して一日タダで遊んだと思えば凄いお得である。 [89180]


GX1, M.ZUIKO 45mm, 1/2500s, F2.8, ISO160

弐日

もともと酒が割と好きで外では良く飲むのだが、家では余り飲まない。洋酒ばかり飲んでいる。

ふと昔に出会った酒に再会し、ついにわざわざ売っている店を探してまで買ってしまったのが真澄辛口生一本である。スッキリとした純米吟醸、こういう酒が好きだなあ。辛口というが、そうかな、凄く飲みやすい。 [89145]

弐月

弐拾日

大人はこう云う。お百姓さんに感謝しながら食べなさい。ゆっくりよく噛んで食べなさい。ゆっくり食べると美味しい。よく噛むと体にいゝ。

云うまでもなく。云われるまでもなく。余の食べるが遅いことよ。遅いが故に食べ残される。食べ残しは許されず。食べ物を残したくない。無情なるチャイムが給食時間の終わりを告げる。しかし余の食事は終わりを迎えない。先生の云いつけを守ってゆっくりよく噛んで食べたから。

席が後ろへ寄せられる。狭苦しくなった席で独り先生の云いつけを守ってゆっくりよく噛んで食べる。皆がほうきを持って床を掃き出す。どんどんこちらへゴミを押し出す。ホコリが舞って。掃除をサボって。それでも余は居場所なく給食に向き合う。ステンレスの食器が余の顔を写す。

なるほどゆっくり食べれば満腹中枢が本来の役割を果たす。もう食べたくない。でも食べない訳にはいかない。給食は自分との闘い。孤独との闘い。掃除との闘い。

こうやって大人になった僕は今日も駆け込むように急いで食べる。 [88947]

拾九日

劇場版「ソードアート・オンライン、オーディナル・スケール」を見てきた。なかなかの混み具合である。ストーリとしてはもうありきたりかなと。

しかし映像は素晴らしい。可愛いゝユナ(CV神田沙也加)がよく動く、よく歌う。素晴らしい。これは萌える。更にアスナが素晴らしい。髪型も凝っているし、ベッドの上の横顔の見せ方とか、もうこれは惚れるしかない。

まあ、どう考えてもVRよりARの方が危険だわな。 [88923]

拾六日

和ヶ原聡司「はたらく魔王さま! ハイスクールN!」を読んだ。はたらく魔王さまと云いながら働かない高校生という設定のスピンオフである。けっこう好きだな、面白い。というか最近の本篇はちょっと重過ぎる。はた魔はこういう生き生きした日常系こそ向いていると思う。良い。 [88876]

拾参日

川原礫「ソードアート・オンライン」第十九巻を読んだ。なんかもう惰性で読んでいる気がしてきた。苦痛ではないが、さほど面白くないように思う。端的に云えば飽きたのかも知れない。最初の頃の緊張感が全くないし。まあ拾八日公開の映画はとりあえず見ると思うけど。 [88813]

拾弐日

マウスのホイールが引っかゝる。動くけど動かしにくい。我慢して使ってると、だんだん気になってきて、一度気になるとどんどん気になって、マウスのことばかり考えてしまう。パソコンの前でずっと思っている。パソコンから立ち上がっても思っている。ひょっとするとこれは恋なのかも知れない。ずっとずっと頭から離れないのだから。

さすがにマウスに恋するのは良くないと自覚し、凡そ十年ぶりぐらいに新調することにした。同じのが見当たらなかったので似たものにしたけれど、ちょっと表面がつるつるしている。液晶で云えばグレア。ちょっと油手には滑り過ぎる気がする。液晶もやっぱりノングレアが好き。まあホイールは快適になったから良いとしよう。このツルツル感もしばらくしたら好きになるかも知れないし。 [88792]

九日

街を歩けば老いも若きもスマホをいじっている。大抵の用事はスマホで事足りるようである。故に近頃の若者はパソコンを触ることがない、キーボードを叩けない、マウスに慣れていない。

もう本当に、パソコンすらできない新人が量産されて、もう何が何やら。確かにこの時代にパソコンが得意な若者は間違いなくヲタクな訳で。 [88724]

六日

岡本倫「極黒のブリュンヒルデ」全十八巻を再読した。相変わらず岡本倫は面白くていゝんだけど、やっぱり前半で終わっていれば良かったのに、という感想は変わらない。にしても結構にちょくちょく至言が登場するから侮れない。

例えば一巻百五十二頁。黒羽寧子「私たちの数日でだれかの一生を救えるのなら、私たちの命は何倍にでもなる」

或いは二巻十四頁。村上良太「決めつけは可能性を狭めるだけだ。命がかかっているのなら出来ること全て試すべきじゃないのか?」

こういう風にぐっと心に響く台詞が随所に散りばめられている。でも一番、為になったのは十二巻百八頁の高屋かも知れない。

「誰か助けてと叫んだところで誰も助けてなんかくれない。人が多ければ多いほどだ。自分以外の誰かが助けるだろうとみんな思う。だから誰かを指差して頼むんだ。その青い服の人助けてとかな。そしたら警察くらいには連絡してくれる」 [88660]

四日

昨日公開されたばかりの映画「虐殺器官」を見た。伊藤計劃のアニメ化である。

なかなかの出来映えとは思うものゝ、やっぱり、なんだろう、そこまで絶賛されるのが分からん。伊藤計劃は肌に合わないなあ。

ちなみに上映館が少ないため、片道七十キロ掛けて見に行ったのであった。 [88622]

弐日

今日上司に、香倉君は○○に自負があるようだけれど、のような言い方をされた。前後の話の流れからすれば褒め言葉のつもりなんだろう。それにしても不快な心持ちがした。自負を持っているかも知れないが、それを人に云われると莫迦にされているように感じる。或いは自惚れていると指摘されているようで困惑する。いやまあ、本当に戒めてくれているのであれば、それはそれでもっと嫌味のない言葉を選んで欲しいものである。 [88583]

壱月

弐拾弐日

病気平癒の神頼みをしたいと母に云われて、思いつく所ということで、とりあえず石切神社へ行くことにした。都会だけに人が多く、寒い上に雨まで降ってきて、何とも苦行のように濡れながら参ってきた。

とりあえず趣旨とは違うが、こっそり痔の平癒を祈っておくことにしよう。 [88372]

拾九日

アパホテルのホームページが停止している。サイバー攻撃との見方もある。

アパホテルの見解を読むと、なるほど説得力のある文章である。ひょっとすると中国政府は焦っているのかも知れない。話題になった本を中国人が興味本位で読んでしまうと、逆に説得されてしまって、かえって中国政府の発表に疑問を持ってしまうのではないかと。でサイバー攻撃である。或いは予約できないように旅行会社にも圧力をかける。本当に中国人が泊まりたくないなら、別に予約サイトがあっても泊まらないだけだと思う。つまり泊まらないのではなく、泊まってほしくない誰かゞ居るということだ。

香倉外骨はこういう陰謀論が大好きである。 [88321]

拾八日

だいぶ昔の話だが、プレイステーションでダービスタリオンをやっていたことがある。馬を育てゝ調教して競馬をする。そんなゲームである。

今日ニコニコ動画でリアルダビスタ第一回を見た。嘘か本当か、ダビスタを実際にやってやろうという企画である。予算は謎だが、とりあえず来月壱日の競りで繁殖牝馬を落とす予定という。何とも胸熱な。かなり長期に渡る企画になると思われるけれど、本当に続けられるのか、そこが心配である。

それはさて置き、中国でアパホテルが炎上らしい。対するアパホテルの公式見解が素敵だな。あの変な社長は変だと思っていたけれど、寧ろその変な所も素敵に見えてきたわ。 [88306]

拾六日

日本は昔から外国語が好きなようである。しかもどんどん自国語が如く取り込んでしまう。かつては漢語を学んでいた。今は英語が主流のようである。使いもしないのに必至に学んでいる。もはや何が和語かつ国の言葉かすら分からぬ有様で。

さて、「ことわる」という言葉がある。広辞苑によれば事割るの意味という。その連想であろう、この言葉に断という漢字を当てた。断は糸を斧で断ち切ることを表している。事を割ることが切断するの意味になってしまった。

一方でずばりと決めるの意味もある。断定、断固などがこの意。そこから理にまで「ことわり」と当てゝしまった。何とも変なことである。事を割ることが理であるなどと。

漢字源によれば、里は「田+土」からなり、すじめをつけた土地。理は「玉+音符里」で、宝石の表面にすけて見えるすじめ。

なるほど理路整然の理である。事を割ることゝと反対のような気がするな。幾らなんでも訳が間違っていたのではないか。 [88262]

拾五日

遅ればせながらアニメ「終末のイゼッタ」全十二話を見終わった。色々と変な所も多いけれど、基本として残酷な物語であった。兎も角フィーネ様(CV:早見沙織)の演説を聞くだけでも価値のあるアニメ。よく分からんがフィーネ様に語りかけられるだけで涙が出てしまった。あとキマシタワーが建ちます。 [88235]

九日

ロジクール製ワイヤレスキーボードK275を千八百円程で買った。これまでPC-9821付属のキーボードを変換器を通してPS/2接続するというマニアック仕様であった。好きなんだよね、98キーボード。しかし、かれこれ十五年は使っていて、さすがにヘタって来たようで買い替えを決意。無線にもしたかったので。

さっそく接続。特に何の設定も不要で使えるようになった。なるほど思ったより打ち易いかも知れない。ちょっとばかり反発がきつくて重いような気もするが、慣れゝば問題ないだろう。とりあえずレジストリを編集して、CAPSCTRLに変更した。やっぱりこゝはCTRLやないとね。 [88112]

七日

映画「傷物語〈III冷血篇〉」を見た。なるほどね。まあ割とよく出来ていると思う。何より体育倉庫の羽川さん、エロすぎますね。おじさん勃っちゃうよ。というか阿良々木はやっぱり吸血鬼になってもダメな奴でした。 [88073]

参日

榎宮祐「ノーゲーム・ノーライフ プラクティカルウォーゲーム」を読んだ。巻数のない番外篇である。いや外伝と云えば第六巻もそうであったので、もうこれも十巻ということで良かったのでは。 [87989]

壱日

新春の寿ことほぎを申し上げます。

さて今年はとり年である。十二支の十番目。方角では西、動物では鶏であるとされている。

ふと酉にサンズイを付けると酒になることに気付く。なるほど今年は酒年かも知れない。漢字源に拠れば、酉とは口の細い酒つぼを描いた象形文字である。そのまんま酒の意味であった。うん、酔という字も酉が含まれている。

酒の異名で水鳥すいちょうというのがある。酒の字を解体したものであろう。酔鳥の意を含んでいるのかも知れない。また俗に酒をサンズイというらしい。もう本当に今年は酒年でいゝんじゃないかと思う。 [87952]


GX1, LEICA DG 15mm, 1/60s, F1.7, ISO200

『雨に濡れて』 制作・著作/香倉外骨  2003/01/09初出  #89679
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