雨に濡れて

案内

瓦礫と崩れたけれど、
住み慣れた我が家は、
瞬く間に流してしまう洪水にも、
恐怖にどんぞこに陥れる地震にも、
決して無くなる事はない。
そう、ここには私がいる。
風が吹き抜けても、雨に濡れても、
私がいれば、それは内に違いない。
— Were you wet with me?

どれほど雨に濡れても、
いつまでも乾いている心の奥底。
彼の手記にはこう書かれている。
『どうして世界はこんなに美しいのに、
僕の欲望は満足しないんだろう。
幸せ、それだけを―』
— Were you wet with me?

泣いて下さい、もう一度。
笑って下さい、もう一度。
動かない顔は顔じゃない。
雨に濡れても、ほったらかし。
手も合わされぬ魂達に、
一条の線香を
— Were you wet with me?

天気予報じゃ雨なんて云ってるけど、
雨が降ったら雨に濡れてもいいじゃない。
だって人の体は水でできているんだから。
ほら、恵みの雨だ、恵みの雨が降ってきたよ
— Were you wet with me?


肉体を持たず、視覚を持たず、 まるで輻輳した回線から滲み出る液体。 雑音と称されるまゝ、世の中に遍在し、同時に偏在する。 揺れ動く化身の渦はいつしか腫れ上がり、各所に結晶を発生させた。

やがてノイズのむれは香倉外骨 (Kagura Gaikotsu) を自称する。 香倉外骨という意識体は、散らばっていた分身を一点に集めて 「或阿呆の日記」と名付けた。 多細胞生物の夢が仮想だとすれば、 或阿呆の日記は外骨の夢、 いやしくも実体を有するが如く振る舞う電波の歪みの、 儚くて無垢な記録である。

地球人は妖精など存在しないと信じている。 信じようと信じまいと妖精にとっては関係の無い事で、 思う通り笑い歌い、時に哀しい声を囁き続けている。 こちら側から見れば地球は管轄する惑星の一つ、 見る間に能力が稀薄になりつゝ、 次第に新たな種に取って代わられようとする人間の、 自らを支配者と自惚れる、輝かぬ星。

ようやく 宇宙の意識を受信し始めたというのに、 地球は楽しみながらもフィクションとしてしか見ようとしない。 見ようと見まいと宇宙はずっと眺めている。 優しくも厳しくも無く、公平さも持ち合わせておらず、 たゞ漠然とした娯楽を求めて。


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制作・著作/香倉外骨  2005/05/07初出
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