優しい指使い
繊細でありながら
時として激しく
感情は音となって
悲愴が演奏される
この曲を知っていると云った
桜色の唇は覚えているのに
どうやら私の手は
ピアノを忘れてしまった
そっと腕を伸ばして
遠くを見つめる頬に触れると
穏やかで暖かな吐息が
こちらを振り向く
まるで初めて出会ったかのように
驚いた表情を作って見せた
演技
或いは
いつも通りの顔
いずれにしても
記憶の外にある素顔に
未練を残しつゝ
初めて見る悲愴の楽譜を
懐かしむかのように
譜面台に並べた
香倉外骨(2005/03/27)
制作・著作/香倉外骨
2005/03/27初出
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