トップページ | されど我が詩集

絶対領域

冷房が切れて暑くなり始めた階段で
云いあらがう二人の姿が
網膜に感光したまゝ消えない

たぶん疑いようもなく
泣いていた
独り自席で泣いていた

儚く

儚く

そのまゝ席からいなくなって
次の日も
その次の日も
席には涙の跡しか居なかった

例えば
物事には丁度良い比率が存在するように
人と人の距離にも最適な間取りがあるのだろう

踏み込まざる
崩しえぬ
絶対領域が

割れてしまえと
心の中で叫び
今日は暑いと
声に出して囁いた

涼しい顔で
そうねと云った返事が
やっぱり
儚げに

儚げに

だからこそ
助けもせず
守りもせず
いたわりもしない

だって人が例外なく卑しいと教えたくない
余計に壊してしまいそうなほどに
小さく弱々しく

ずっと
未来まで

たとえ
痩せ衰えようと

儚いその身を
見つめ続けたい

香倉外骨(2006/08/07)

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制作・著作/香倉外骨  2006/08/07初出
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