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あすかみみ

ストを知って一年半、毎週のように通い始めて半年。たったの半年で、こんな喪失感を味わうとわ……。

何か、通い続けるのがちょっと怖くなったけれど、ただ、そう感じる程のステージを見せてくれていたことに感謝です。だからやっぱり、また劇場に行かないとね。あすかみみさんも、そう願っていたから。

朝九時頃、自宅を車で出発する。本当ならば飲めるように電車で行きたい所、終電が間に合わないと踏んで車で走ることおよそ二時間ばかり、もの寂しく小雨降る中、天六まで行き、コインパーキングに車を停める。

とりあえず腹ごしらえをし、コンビニで麦茶を買い、東洋ショーへと向かう。まだ正午にはなっていない。開店前にも関わらず、既に列が伸びて路上で待つことになる。

そんな今日の香盤は、橋下まこ→藤咲茉莉花→雨宮衣織→大見はるか→あすかみみ。

もちろん十二日に見に来たときと同じ香盤。引退を表明している、あすかみみ嬢の最後を見に行こうと、その日は軽い気持ちで訪問した。前半の日程の方が空いているという計算もあった。元々好きな踊り子であったけれど、好きな踊り子はたくさんいる、その一人に過ぎない。自分でもそう思っていた。ならば混んでいると分かっているのに、なぜ今日も来たのか。

前回、これが最後と思いながら見ていると思わず涙が出てきて、何か自分でも知らん内に、実はあすかみみさんの虜やったと。ロビーにて写真集販売イベント。フィナーレが終わったばかりのみみ嬢がクロックスで登場する。その歩いている姿を見て、思いのほか、小柄であることを知る。舞台で大きく見せるので、もっと背が高いと思い違いしていた。この小さな体からあの力強い動きが出ているんだとしみじみ思う。こうして彼女の魅力を今更ながら自覚した。

だから今日も、本当に最終日の今日も、混んでいると思っていながら今日も、結局はプンラスかなあと思いながら、泣かないように覚悟しつつ、東洋ショーに入場したのである。

一回目から既に異様な雰囲気の場内。初めから人が多い中、どんどん増えて、トリあすかみみ嬢が登場のときには、完全に満員で、既に立ち見が五十人は居そうな感じになっている。

演ぜられるは名作と名高い「結」。青が印象に残る和服に包まれて、そして結び目のついた布を纏い盆へと。結びに絡みながら舞う姿に、たぶんこれは一つの結末の時と既に泣きそうになるも、いや、今日は泣いている場合にあらず、この目に確かに残し、かくして見届けなければならない。けだし本作は名前からも引退作として作られたものなのだろう、美しくも哀しく、儚くも魅力ある演目である。数ある名作の中でも引退週に持ってきたのも納得である。

オープンショーはチップショー。音楽が終わっても受け取り終わらず、手拍子で終わるのを待つ。続いてのポラ。この列が凄まじい。百人に達しているのではあるまいか。反対の壁まで続いて更に折り返す待ち列。当然に時間が押す訳で、日曜ということもあってダブルオープンはカット。先週見たように、大見嬢とみみ嬢で場内が盛り上がっていたので残念だけれど仕方あるまい。フィナーレで一回目終了。

二回目。

藤咲茉莉花嬢の「フェアリー」。私は見たことがないけれど、かつてあすかみみ嬢が踊っていたという。枠から出てきて、その結び目のある布が、どこか「結」に通ずるものがある。美しくも儚い演目である。

大見はるか嬢は「アイドルみみたん」。ええ、そうそう、みみ嬢のアイドル演目である。コミカルな動きや、武術のような力強い動きも盛り込まれていて、楽しいはずの演目なのに、どこか寂しく感じてしまうのは。小雨が降る今日の空の所為かも知れない。

そして続くあすかみみ嬢、同じ曲が繰り返され、場内に笑いが起こる。同じく「アイドルみみたん」、連続して同じ演目とは、初めて見る並びである。大見嬢には申し訳ないが、みみ嬢の動きの切れ味を思い知る。その一挙手一投足の説得力が違って、なるほどこういう動きを意図していたんだと納得させられる。ハート型の風船をふんわり上に放るだけのことも、天井の柱の位置関係を把握してぶつからないようにしている。それを見ているだけでは気づかなかったけれど、先にぶつけていたのを見た直後なので、分かってしまうのである。

ポラ写真、左で大見嬢、右にみみ嬢が、同じアイドルみみたん衣装で登場。もちろんまたしても長蛇の列。

三回目。

ラスト作「カラフル」。白い筒状の行灯あんどんが花道に並べられる。ゆらゆら揺れる蝋燭ろうそくが、まるで霊前灯のように、おごそかな空気を発して場内を満たす。その空気のまま、誰も拍手などできず、美しい着物で始まり、寂しく揺れるあかりに照らされながら、麗しく舞う姿に、ただ固唾かたずを呑む。しんと静まる場内。誰もがただ一点、その舞に見入っては、別れの時が近づきつつあることを知るであろう。所々で鼻をすするような音が漏れ聞こえる。何と綺麗でつらい作品であろうか。作品名となっている曲が流れれば、長いひらひらのついた扇子が華麗に宙を舞う。くるくる回る布の中に、一糸まとわぬ姿、誰もが見惚れる。

曲が終わり、幕が閉まる。暗闇の中、やわく揺れる光だけが残る。あすかみみ嬢が静かに歩み寄り灯りを消す。一本一本、消していく。やがて闇と静寂だけが残り、去っていく。

余りにも象徴的で寂しい演目である。確かにラスト作と言えよう。おそらく元々はこの作品で踊り子人生を終わらせようと思っていたに違いない。最後ための最後を表す作品。故に前日はこれを四回目に持ってきていたらしい。すっと消えていくような終わり方は確かに魅力的に思えるけれど、思う所があったのだろう、これを三回目に変更している。

四回目。

少し進行が遅れながら最終回の公演が始まる。依然として超満員の場内。ここで放送、4−1進行が告げられる。四人が終わってから一人の通常進行で本日最後の演目が始まる。

あすかみみ嬢が引退最終演目に選んだのは「おいでませ極楽浄土feat.みみぃオング」。唐傘を見事に回し、羽扇子を華麗に羽ばたかせて、一連よどみなく舞い続ける。ベット着への着替えも切れ目なく、よく練られた作品である。

観客はもう一点しか見ておらず、座っいる者も、立ち見の者も、一体となって、手拍子が寸分の狂いもなく打ち鳴らされる。完璧に一致する大きな手拍子。その響きに誘われるように、あすかみみは踊る。これがあすかみみだと誇るように。これを見よと、見届けよと叫ぶように。オングの名の通り、翼のついた衣装で盆を羽ばたけば、彼女らしい切れ味満点の力強い動きに、場内は一層盛り上がる。

泣いている場合じゃない、沈んでいる場合じゃない、今この瞬間に盛り上がらないでどうする、今この場所で目に焼き付けておかないでどうする。

踊り切った最後の演目に、止めどない拍手が続く。

通常進行なのでここでポラ。もちろん誰もが並んでいる。列がどこまでも続いている。あすかみみ嬢の言葉はいつもに増して優しく、それでいて未練なくやり切った清々すがすがしさに溢れていた。これからも劇場に来て欲しいと、後輩を応援して欲しいと、声を掛ける姿に改めて見惚れる。

一名、キュゥべえことインキュベーターの格好でツーショットを撮っていて、場内の笑いを誘う。はたと気付く。今更ながら気付く。そうか、オープンショーの曲も、ラスト作の曲も、まどか☆マギカなんだと。アニメより先にCDやらで曲の方を知っていたので気付いていなかった。そもそも私がアニメを見たのは去年の九月。つまり、あすかみみ嬢を知った後で視聴したのだから、そこが繋がらなかった訳だ。

長い列がやっと終わりになる。既にかなり遅い時間になっている。場所によっては終電を過ぎてしまうであろう状況で、ちらほら帰る客もいるものの、まだまだ超満員であることに変わりはない。

オープンショー。いつもの曲が始まり、いつものピンク色のハッピで登場すれば、次々とチップに立ち上がる人たち。余りに多くて、まるでポラ列のように並び始める。曲が終わって手拍子が永遠と続けば、場内にアンコールが起きる。後ろを振り返り、投光にもう一度曲を流すよう促せば、しばらくしてオルゴール版の曲が流れ始める。お、粋なはからい、と思っていると、唐突に幕が引かれ照明が消される。オルゴールの音がまるで閉店の合図に思われて、まだ終わってないと叫ぶ彼女の声。そこで盆にぼんやりスポットが当たり、彼女にそこへ来るようアナウンスされる。プロジェクターで映像が流されて、別れを告げる踊り子たち。本当に粋な図らいであった。

映像が終わると、マイクが渡される。本舞台に移動して皆を見て挨拶。ロックの踊り子なんだけど、東洋が好きで、最後のステージは東洋にしたくて、こんなにも色々してもらって、感謝で一杯ですと。

突然、派手な号砲で紙吹雪が舞う。ただし盆の方向へ。たぶん挨拶を盆の上でする想定だったのだろう、本舞台に移動してしまったのでちょっと明後日の方向になってしまった感じ。

そこからチップ列の再開。長く長く続く。余裕で百人超えと思われる。榎本らん嬢が闖入してチップを渡せば、導かれるように他の踊り子たちも別れの言葉を掛けて行く。皆がそれを見守っている。すべての列が終われば、完全に終電の時間を過ぎている。

ここで、あすかみみ嬢がもう一曲とアンコール。時間が過ぎているのでとマイクで回答する投光に、静かにするからと懇願する。観客も皆、投光に目で訴えれば、渋々と言った感じで音が鳴らされる。

こうして、最後に、最後のオープンショーが始まる。今日は一回目のオープンショーからチップの受け取りだけで終わったいた。実質的に今日初めてとなれば、誰が静かに見ることなどできよう。

踊り子として最後のオープンショー、気丈に踊る姿に合わせて、満場一致の手拍子が木霊こだまする。そして彼女の掛け声に導かれて、全員が拳を振り上げ、掛け声を上げる。絶叫であるが悲鳴ではない。暖かい別れの勝鬨かちどきを……。響き渡る熱情が、余韻を残しつつ、本当に終わりの時を迎える。

踊り子としての全てを終えて盆へ向かう。紙吹雪に彩られた盆に、大の字に寝転べば、すっと盆が回される。その景色が余りに尊かったので、もう何も見えなくなってしまった。

寒空を見上げれば、既に雨は止み、月明かりが静かに夜道を照らす。がらがらの阪神高速を駆け抜けて、今日という日の終わりに向かって走り去る。

あすかみみさん、感動をありがとうございました。そして、お疲れさまでした。今後のご活躍をお祈り申し上げます。

お元気で……。


制作・著作/香倉外骨  2019/01/23初出
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