仕事終わりの夕方、少しばかり時間ができた。そうだ、東洋ショーへ行こう。電車に乗って東洋ショーへと向かう。少しばかり腹ごしらえをして入場してみれば、すでに四回目が始まっていた。
小糖こはくさんが降板して代演で巴殿が。何度か観た演目だけれど、デビュー当時の硬さとは打って変わってすっかり落ち着いて、いい雰囲気で美しく踊る。髪が短くなっていてなんかすごく可愛い。上野さんから代打の神様も継承するのだろうか。
鈴木千里さんは、もう今日も何も言うべきことがないぐらいに、すごく尊くて、二曲目の白いドレスなんか、むしろお父さんの気分で見守ってしまうような、見守らされてしまうような。
ひなた鈴さん、安定したダンス、かっこいいもかわいいも綺麗も同居していて、それでいてじっくりと魅せる。たまにデジするだけなのに、スーツのリラックマと言われる。今日は仕事帰りでどこにもリラックマ装備してなかったのに。もしかしてバレてる?
四回目のポラタイムが終わって最後のダブルオープンが始まる。少しして土足で盆に上がるおっさん。酔っぱらいか? その割にはしっかりした足取りだが。
一人じゃなくて何人もステージに上っていく。場内にたくさんの男がなだれ込んでくる。皆、地味な私服姿である。誰かが令状持ってんのかと言うと、A4の紙をひらひらさせていた。もちろんそんなん読めないけれど。
それだけは被り直したのか、帽子だけは警察っぽいものを被っていて、モリグチはどうたらという声が聞こえてきたので、てっきり守口署チームに指示を出していたのかと思ったけど、後で思うとそれは単に森口という名前だったのかも知れない。ともかく立っている客も全員座らされて動かないように言われる。
踊り子さんにパンツを穿いているのか尋ねて穿いてないと応える。すると女の警察が呼ばれてまずは穿かせろと指示される。
次々とステージ上に乗せられるスタッフ、関係者たち。ステージのど真ん中で手錠を掛けられる。余りにも劇場的な逮捕、それは幾ら何でも演出が過ぎるのではないだろうか。
前の方の席から客に命令が始まる。引換券を出せという。それを見ていると別の警官がこちらに声を掛けて、身分証と携帯電話を後で使うから用意するように言う。内心ドキドキしながら前の列の様子を伺う。引換券を封筒に入れて何か書類を書かせている。証拠物品の押収ということだろう。
基本的にこの写真、撮影という行為が曲者なのだ。警察が言うところの「公然わいせつ罪」は現行犯以外になかなか証拠というのが残らないので、この写真を物証にしたいのだろう。
軍服さんとていつも軍服のコスプレをしている客が近くに居て、これにはさすがに警察も困惑している。これに戸惑うとは警察も内偵が足らんのではないだろうか。「ええっと従業員ですか」問われ「いや客です」と応えている。そのやり取りが普通に面白かったけど流石に笑うことのできる雰囲気ではなかった。
私の順番になって引換券を出せと言われたので持っていないと応える。入場時にチケットもらえるでしょ的なことを言うのでドリンクにしましたと。そんなシステムあるんですか、その男はいったんどこかに行って、たぶん確認してきたのだろう、ドリンクですねと言われたきり、しばらくいったん放置される。
たぶん大丈夫と思いつつ、そうなると終電が心配になってくる。気持ちに余裕が出てくると、さっきから舞台の上を土足で歩くポリどもが気になってくる。大人しくしとこうと、変に目をつけられるようなことは止めとこうと思いつつも、やっぱり我慢できんようになって近くに居た警官に声を掛けてしまう。たぶんさっきの警官だと思う。
「というかさあ、ステージに土足であがるんはあかんでしょ」
「床でしょ?」
「床じゃなくてステージ。神聖な場所なんやから」
「神聖な場所?」
鼻で笑いながらそう言うとその警官は離れた所に移動してしまった……。ゆ、許せん。許さんぞ、大阪府警くそくらえ。
しばらくして別の男が来て、さっきの警官にあれがドリンクの方か確認し、それから私の肩と近くの何人かの肩をトントン叩く。ちょっとこっちへ来てと呼ばれる。うん、これは先に解放されるかなと思ったけれど、たぶん他の人は別室に呼び出されたのかとビビったかも知れない。
階段の途中で、これって公然猥褻だからとか呟かれながら、案の定、もう行っていいと言われる。一緒の来た客はまさか解放されると思っていなかったのか荷物を忘れたと取りに戻った。たぶんあんた、僕に感謝していいよ。後で外に出てきたおっさんに「危なかったなあ」などと軽く声を掛けられた。
知識は身を助くという。実際に助かった。だけれど何か後味が悪い。自分の機転の良さが情けない。まだみんな解放されていないのに、先に放免されて。皆を裏切ったような、後ろめたさが背後になびく。
安堵しつつ、その理不尽と傍若無人な振る舞いに、怒りと、哀しさと……。
僕はね、
美しい演目も好きだし
かっこいいのも好きだし
アイドル演目も楽しいし
何だかんだでオナベも好きだし
でも時に反戦歌のように考えさせられる演目があって
その全てが凝縮している、
ストリップ劇場という空間が大好きです。
制作・著作/香倉外骨
2024/11/19初出
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