トップページ | 或阿呆の戯言

逢いたい、逢いたいと。

妻は絶えず夫に服従することによって彼を支配する。フラー

逢いたい、逢いたいと。

ひょっとして逢えるのではないかと期待する。メールの言葉の端々に一々反応し、ひょっとして逢えるのではないかと、期待する。

なぜなら、逢いたい、逢いたいから。

莫迦だなあ。逢えるなら、とっくに逢っているはずじゃないか。できないから、こうやってメールを往復させている。感情に翻弄されて進んで自ら徒労をしようとしている。本当に、莫迦だなあ。

こんな莫迦な自分が嫌いだから、嫌いな自分になりたくないから、そうなる自分を見ないで済むように、避けて来た、そうならないように独りで生きて来た、独りで生き続けるつもりだった。たぶん僕は独りでも生きて行けた。なのに、こんなにも、逢いたい、逢いたいと、たった数日、逢っていないだけ、話していないだけなのに。

だから、次の日に逢えるとなったら、わざわざ仕事が終わってから車を飛ばして待ち合わせをする。たった四時間のために。そう、四時間もの時間が一瞬で過ぎてしまう。

こんなふうに時間を無駄にしたくないから、避けて来た、逃げて来た。分かっているのに、逢いたい気持ちを抑えることが全くできなくなっている。

楽しい、ひどく楽しい。たゞ一緒に食事をして、一緒に湯船に入って、一緒に布団に入って、一緒になるだけだのに。楽しい、ひどく楽しい。ひどいことなのに、許されないことなのに、幸せであってはならないことなのに、莫迦げたことでしかないのに。

逢い足りない。


制作・著作/香倉外骨  2009/03/07初出
無断転載を禁じます。リンクはご自由にどうぞ。
Copyright © 2009 Kagura Gaikotsu. All rights reserved.