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莫迦な社会

生きていくってことは辛いことだ。毎日々々、夜明け前から日没まで、たゞひたすらネギを刻んで刻んで、それでも壱日に二千円にもならんという。労基で飯は食えんとそれでもその仕事にすがって生きている。腕が痛くなっても、寒さに耐えながら、たゞひたすら生きる為にネギを刻み続ける。

いっそ死んでしまえば楽かも知れぬと、首吊って死ぬことも考えた。けれど負債を残してして死ぬのは余計に迷惑だと思って思い留まる。人様に迷惑は掛けられぬ、人様の世話にはなれぬ、何とか生きて、生き続けて、死ぬよりも苦しく生きて、それでもやっぱり世間に迷惑を掛けていると自責しながら生き続ける。

優しい人が苦しんで、誠実な人が貧しい思いをする。冷たい人が得をして、卑怯もんが楽な思いをする。

所詮そんな程度の社会さ。優しくて誠実な人は莫迦さね。愚鈍で蒙昧もうまいほかならぬ。だけどその生き方を誰が笑える。莫迦が莫迦を見る社会を誰が笑える。だって立派な人間が莫迦にされ莫迦を見る、そんな社会こそ莫迦だ。

けれど誰もどうもできない。何とかしようとする奴は莫迦だからな。莫迦が損する社会だからな。莫迦は莫迦にされて潰されてしまう。莫迦はいっそ死んだ方が幾らか増しというもの、それぐらい莫迦になっている。

けだしひょっとして、もしかしたら、莫迦だから貧しいんじゃなくて、貧しいから莫迦なんかなあ。貧しいから優しくも誠実にもなれる。捨てるもんがない故に捨て身で何でもできる。莫迦も銭金ぜにかね持ちゃ、にわかに我儘なって卑怯で冷たい人間になっちまうんやないか。富を守ろうと人を蹴散らし、もっともっとゝ贅沢を求めるんやないか。

即ち心の不浄こそ人の本質、そうやって蹴散らす醜悪さでもって人は進化してきたのだ。莫迦な社会こそ人が望んで造り出した理想の世界。ならばいっそ理想の世界に溺れてしまえ。泣いても笑っても呑み込まれてしまえ。心の貧しさに耐え切れず首吊ってしまえ。いっそ人間社会なんぞ滅びてしまえばいゝ。


制作・著作/香倉外骨  2011/11/30初出
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