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接吻

たゞ「好き」という二文字を発するだけで「じゃあいゝ」と納得してしまうのか。

好きとか好きじゃないとか、可愛いとか可愛くないとか、気持ちいゝとか良くないとか。そんなことよりも、二日前から喉に詰まったまゝの魚の骨のことの方が、よっぽど大事なはずなのに。

会社近くのいつもの居酒屋で、二人きりになった二人は少しばかり酔っていた。酔ったまゝ寄り添い、寄り添ったまゝ酔い続ける。こんな風に店でいちゃつく姿を見せられないな、特に君の彼氏には。

真夜中、駐車場の奥で二人は抱き合う。されど居酒屋でも当たり前のように合わせていた唇を、絡めあっていた互いの舌を、求め合い、或いは拒み、重ねることなく、ほほを撫で、即ちすすり泣く。

振り返りもせず逃げ帰るその背中を見送れば、夜更けの冷たい風が、ぬくもりを失ったこの身を震えさせる。

好きとか好きじゃないとか、よっぽど大事なはずなのに。


制作・著作/香倉外骨  2008/10/17初出
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