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夢見ること

夢見ることがある。

いつも夢ばかり見ている。

それは、どんな夢だったか。どんな幸せだったか。どんな悪夢だったか。

宝くじに当たったら、当たったら、悠々自適に暮らせる。心静かに世間の些事から遠ざかり、仕事もせず、淡々と死ぬまで生きることができる。

それはどんな夢だろうか、幸せだろうか、悪夢だろうか。

離婚して、たった一枚の紙切れで離婚して、世間の重圧から解放されたら、自分の時間を取り戻せる。自由を、未来を、嬉々と死ぬまで生きることができる。

それは夢だろうか。夢と現実とが一緒になって、いつしか全て消える。

世の中にはさ、守らなけりゃいけないルールってもんがあるのさ、と教えられた、信じてきた。けれど信じたところで守られない、守ったところで報われない。いっそ破ってしまば、いっそ崩れてしまえば、幸せになるのか、悪夢になるのだろか。

ほら、この身にしわが増えたように、その身も年老いている。死ぬ時が近づいてくる。まだまだ遠いけれど、ずっと先にはっきりと見えている。眼鏡もコンタクトもしていないのに、くっきりと見える。死が僕たちを見ている。

死ぬときは、一緒だろうか、別々だろうか。

あゝ、愛してもないのに愛されるのと、愛しているのに見向きもされないのとでは、どちらが切なかろう。

死ぬときは、独りだろう。否、死んだら独りも一緒もなくなる。何にもなくなる。夢も見ない。幸せもない。悪夢もない。何もない。

憎しみもない。泣くこともない。愛すこともない。笑顔もない。怒りもない。不安もない。涙もない。孤独もない。恐怖もない。結婚もない。世間もない。死ぬこともない。雨もない。どこもない。

夢見ることも、ない。

夢が、

ちっぽけな夢があったことすら、忘れ去られる。

跡形もなく忘れ去られたら、いっそ幸せなのかも知れない。


制作・著作/香倉外骨  2010/07/13初出
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