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ラスト

川崎のホテルを出ると小雨。折りたゝみ傘を取り出して開く。今日は寒い。雨の中を散策する気にもなれず、さっさと移動を開始する。川崎駅から国鉄に乗り、品川経由で新宿駅へと至る。

新宿駅は何回来ても慣れない。方向感覚がなくなってしまう。高低差があって、今が地上なのか、地下なのか、それすら分からなくなって、でも今は携帯を取り出して地図を表示すれば現在地が分かるから、何の問題もなかったかのように歩き始めることができる。便利な世の中になったものである。

荷物をコインロッカーに預けて、歌舞伎町の煮干ラーメン凪へ行く。朝の十時に関わらず、そこそこの客入り。隣の先客がカウンターに突っ伏して寝ている。嫌だなあ、と思いながらちらちら横目で見る。我々にとって朝だとしても、彼にとっては深夜なのだろう、締めのラーメンということかも知れない。されどラーメンが出てきても気づかないぐらい酔っており、店員に肩を叩かれてようやく食べ始める。何やら財布をいじっている。嫌だなあ。そしてやっと出ていった頃、こちらも完食していそいそを店を出ようとしたら、ドアの所に財布が無造作に落ちていた。絶対にあいつだ、とりあえず思わず走って追いかけて、なんとか追いついた。財布落としていませんか、と声を掛けて連れ戻す。何とか間に合ったけれど、また落としそうな雰囲気であった。ま、そこまでは責任持てないし。

雨宿りを兼ねてコンビニで買い出し。酒とビールにハイボール、おにぎり一個にペットボトルのお茶などを補充し、いざ出陣。

ゴールデン街の入り口、新宿ニューアートは十一時に開く。ちょうど十一時に到着したけれど、まだ待ち列が捌き切れておらず、列の後ろに着く。なかなかの混雑かも知れない。地下へと降りつゝ、早朝料金四千円を支払って、いざ場内へ。そこそこの席を確保する。既に八割ぐらい埋まっている。正午の開演まで本を読みながら適当に過ごす。照明が暗くて読みにくい。

そういえば、途中のポラ時間にブレーカーが落ちる事件があった。ロビーにいたら急に真っ暗になったのに誰も動じず、楽屋から何か真っ暗なんですけどと藤咲さんが出てきた程度しか混乱せず、数分後にはブレーカーが上がった。地下で暗闇になっても、携帯を使えば当座の明かりは確保できる。便利な世の中になったものである。

そんな新宿ニューアート、本日の香盤は、藤咲茉莉花→早瀬ありす→小室りりか→有沢りさ→虹歩→鈴木千里。開場から終演までずっと引きこもる。いわばプンラス、滞在は十二時間に及ぶ。今日は今年のストリップ納めであり、鈴木千里納めでもある。本年のラストストリップ、略してラストは、鈴木千里じゃなきゃね。

進行は、一回目が通常、二回目オールダブル、三回目はダブルダブルピンピン、四回目バラシの通常進行。

一番、藤咲茉莉花嬢。一回目と三回目「コロボックル」で、舞台両側に草を垂らしての演目である。二回目と四回目「蝶々夫人」は、和服で登場するも脱がずに下がる。豪奢なオペラ調の曲で進み、ベットでは書上かきあげさんの歌声が響く。なかなか美しく素敵な演目である。

二番、早瀬ありす嬢。一回目と三回目は、鏡から出てきて夢の世界に。なるほど、鏡の国のアリスであろうか。二回目と四回目は、うってかわってポップな感じで、ガリ勉姿で登場、次にアイドルとなって、最後はヒーローものになる。これは楽しくて面白い。特に一番と対比があって見応えある香盤になっているなと。

三番、小室りりか嬢。初見。一回目と三回目がノリノリの演目、二回目と四回目は「どうして君を好きに」。個人的に思い入れのある曲で、しんみり見てしまった。

四番、有沢りさ嬢。一回目と三回目が和服で昭和歌謡の演目。有沢さんの着物姿はどうしてこんなにも色っぽいんだろう。二回目と四回目は昭和アイドルな演目。どっちにしても昭和感が満載で、哀愁と妖艶さが漂っていた。

五番、虹歩嬢。一回目と三回目、帽子を次々と取り替える演目で、流れるようなステージとグルーブ感に魅せられる。二回目と四回目は、和服で洋楽という組み合わせ。ゴージャス。これはノリノリ。

六番、鈴木千里嬢。今年の大千秋楽となる。一回目、レインポンチョと傘の演目。何度も見たけれど、実際に雨の降っている日に見るのは初めてと思う。最後に青空の見える晴れやかになる。三回目は米津曲が続く演目で「はちみつレモン」と勝手に名付けている。二回目と四回目「Cristalisia」で黒と赤が印象的な演目。本当にこれはいゝな。勢い、流れ、切れ味、そしてベットで暗転での衣装替え、立ち上がりからのもう一曲、そして消えるような終わり方。すべて一体となって、本年最終演目として充実と余韻を残す。

今年一年に感謝しつゝ、良いお年をと挨拶することができた。午後十一時過ぎに終演。鈴木さんの傘の演目が暗示であろうか、終われば雨もあがって、清々しい心持ちに。

夜空につき、青空ではなかったけれど。


制作・著作/香倉外骨  2019/12/30初出
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