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あえかなる空

ひとひらの足音に振り向いて
すっと視線を戻して
儀礼の挨拶を発する

やわらかな風が起ころうと
搾り取られた涙が流れようと
窓の外は夏空のまま

思えば
プリンタの排気音も
コピー機が動く気配も
エレベータを待つ人も
パンチが穴をあける感触も
背もたれが反発する力も
終業を告げるベルも
いつもどおりの視界にある

いつもどおりの視界に
いつもどおり座って
そっと振り向いて
更に向こう側の窓を見る
やっぱり空は青い

嵐が来て
炎が上がって
空をも吹き飛ばして
灰まで燃やし尽くして
何もかも消してしまえば
日常から解放されるのであろうか

何を見て
何を望む

欲しいと
欲しいと
欲しがってばかりいるのに
ただ見ている
望んでいる

祈って叶うならば
願って落ちてくるならば
もうとっくに手に入っている
だけどやっぱり
空は今日も平穏であり続ける

香倉外骨(2006/08/18)

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制作・著作/香倉外骨  2006/08/18初出
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